父親の父方も母方も名家だった...ように口先ではアピールしてきたけれども...
何一つ名家だったことを物語るものは残されていないのだから...
「名家...ではなかった」ということなんだろう。
どころか...
むしろ「名家とは思えない痕跡」に辿り着くことが多かった。
祖父は「郷里で有力な企業の跡取り息子だった」と聞いていたんだが...
どうして継がずに郷里を捨てて都会に出てきたのか?
出てこなきゃならなかったのか?
外人のような名前の位牌の年齢は随分と若いんだけれども一体どんな関係なのか?
そもそも仏壇が信じる宗派じゃあ無垢の紫檀かなんとかなのに...
どうして我が家のは金箔だらけなのか?
どうしてそんなにあれもこれもが名家の基準に当てはまっていないのか?
...ひょっとして...
...真実や正道を...
知らずに模倣だけしてきたんじゃないのか?
祖父は父親の若い頃になくなっていて...いわゆる母子家庭だった...
それでもその祖父を賢く優秀な人物であるように英雄扱いして私には聞かせたもんだが...
やがて見聞きする遺品や伝わる話からは...
父親の言っていることとは随分相違がある。
「大卒らしい(らしい...って何?)とは言っていたが...卒業証書は残されていない。
「病気でやむなく命を落とした」と言うんだが...
それ以前は大酒飲みで、女癖も悪かった...と違う人からは聞く。
いや、その方が...”父”と同じなので、納得してしまう。
どうして...”事実”を認めたくなかったんだろうか?
祖父の生前を見たことが無い人々には
それをいいことに”事実”を
塗り替えてしまいたかったんだろうか?
塗り替えてしまいたいほどに
知られたくない実態だったんだろうか...
嫁いできた母親はいまだ気が付いていないのかもしれない。
立派な家庭に嫁いだと信用しているかもしれないので
今更ひっくり返すこともない。
そこが家庭だと思っているから。
そこしか家庭だと思って疑うことなく生きてきたから。
何ゆえに「名家でありたかった」のかなんて自分にはわからない。
ただ...そんな事実ではないことを装飾するかのような努力は...
実も結ばないし、結果誰の幸せにもつながらなかった。
父は...かなり派手なことを何十年とのたまい、うそぶいてきたが...
現在の景色は...
”風の前の塵に同じ”
を連想させる。
自分は...
そのようにはなりたくない。
それだけ。