小舟からⅡ

小舟から...鉄の斧...緊箍児...そして...小舟からⅡ

井戸の中から出られないほどの蛙

 

 


いろいろなことが

すぐにわかったつもりになる...

 

本庶佑先生はあっさりたしなめた。

「教科書とて簡単に信用するじゃない」...と。

 

「読んだ(ぐらいの努力)程度でわかったつもりになるなよ」

ということなんだろう。

 

福沢諭吉大隈重信は百年以上の昔から下人にでもその戒めを施してくれた...というのに...

それを反故にしたのは自分だ。

 

ペンは剣より強しは、戦うことじゃない。

毎日毎日の地道な努力の方がうんと力になると説いてくれていたんだろう...

そして身分にかかわらず扉は開いていると準備してくれていたのに...

 

その価値がリアルタイムな次元では、わからないところが....

下人の下人たる所以。

本人の身の回りにもわかっている人間が居ないことが下人たる環境。

 

自分が育った下人地域は....大学なんぞ行こうものなら....

「あそこのガリ便さんはよう....」とむしろ小馬鹿にされた。

「んなネチネチ理屈ばっかいう公務員のような人生の何が面白い」

と一升瓶を片手にタバコをくゆらせ、真っ黒に日焼けした太い腕を自慢そうに見せて嫌みを吐いた。

 

自分勝手な解釈で現実を自己満足できるように否定しただけのことだ。

...の家庭を何代も続けてきているのが、現在でも下人の家庭。

そう、私の家庭。

 

私の親父の代でも気が付いたらしい家庭もある。

私の代で気が付いた家庭もある。

 

極端にわかりやすいのは...

東大に入らせたり、官僚にならせたり

あるいはスポーツ枠?にチャレンジさせたり、芸能枠もあるかな?

そうやって、下人とはかけ離れた地位を目指すこと。

 

そこまでいかなくても...

地方国立大、上場企業、公務員...

いわゆる下人が卑下するような立場を手に入れること。

 

それが下人の世界から脱出する手っ取り早い方法だということをどこかで知ったんだろう...

 

いや、大学であったり、職業ではなくとも....

ものの考え方であったり、心の置き方であったり、人の見方であったり....

そういったところで拗ねたり、妬んだり、卑しんだりしない生活で

何代か後には下人の世界との距離は出来てくるように思う。

 

が、下人は....

くさすだけなのだ

妬むだけなのだ

すぐに嫌みの言葉が思い浮かぶのだ。

自分にはほど遠く、活躍も出来なければ、注目もされず、面白くない世界のことが....

あたかも眩しすぎて、不慣れ過ぎて...

直視出来ないのだ。

 

初めて訪れた東京に

「臭くて汚いだけの街じゃねえの」

と吐いた自分は下人の卑しいDNAがしっかりこびりついていたということなんだろう。

 

本当に臭くて汚い”だけ”の街であったなら

こんなにも繁栄しているわけがない。

 

別に東京を好きになる必要はない。

 

が、繁栄の事実と未来ぐらいは冷静に予見したいものなのだ....

 

下人は事実を事実として受け入れない。

事実を認めたくないから。

「気持ちが大切」

とか言っちゃって、自分に都合の悪い事実を否定し、”気持ち”のバリアーの中でまた今日も自分を甘やかす。

 

のくせして....

「一を聞いて十を知ったつもり」

になっているので....

井戸の中から出られないほどの蛙になってしまう。